労働時間の適正な把握、ベストな選択

働き方改革関連法の本格的な施行が、この4月から始まっています。中小企業にとっては年次有給休暇の確実な取得5日以上が目先の課題です。

大企業では4月から残業時間の上限規制がスタートしています。中小企業は、来年2020年の4月から~。

そんな中、最近「労働時間の把握の方法」について、ご相談やご質問をいただく機会が増えています。キッカケは、労働基準監督署の調査が多いです。
(既存のお客様ではなく、新規の企業様などからの相談ばかりです。)

「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)」を資料として示されるのですが、企業様のご事情が分からない限り、どのような労働時間の把握の方法が適切適当なのか、答えは導き出せません。

大阪社労士事務所・労働時間の適正な把握、ベストな選択

相談事例は、こんなところです。

  • クラウド型の勤怠管理システムを導入しましたが、これで良いですか?
  • パソコンのログオン、ログオフで残業代を計算するのは、問題ですか?
  • 移動時間は労働時間ですか?
  • 始業時刻前の出勤は、時間外労働には入りませんよね(念押し)
  • タイムカードと、ICカードの時間管理は、どちらが良いですか?

以下、よう似た内容を過去にも何回も書いています。

クラウド型の勤怠管理システムは、万能ではない

クラウド型の勤怠管理システムの導入前に、「なぜ、それを入れるのですか?」と問いたい。

コストセンターに、より一層のコストを掛けるという考え方なら、今一度立ち止まってはいかがでしょうか。

「いやあ、客観的な記録をしないといけないので。」
「◯◯商会や、給与計算ソフトの◯◯社からの情報にも、効果的と書いてある。」
年次有給休暇の管理も簡単にできるらしいから。」

業務フローの見直しや、時間外命令のあり方を考えないで、「クラウド型の勤怠管理システムを導入すると全部解決=安心」になっています。が、何も解決していません。

給与計算ソフトとの連携やインポート・エクスポートを考えるのが、省力化・効率化のためには普通です。クラウド型の勤怠管理システムを導入しても、連携などを考慮せず、従来どおりの業務フローなら、省力化などはできない可能性が高いです。

「導入が先」ではなく、「目的が先」ですので、ご注意ください。

「客観的な記録」に引っ張られすぎ

客観的な記録、いろいろな働き方改革のパンフレットやリーフレットにも記載されています。が、よく見てみると、「客観的な記録を、そのまま使う」とは書いていません。

「客観的な記録を、ベースに(基礎として)」です。

であれば、現在ガッチャンのタイムカードを導入していれば、十分です。タイムカードも客観的な記録方法の一つです。わざわざ、ランニングコストの掛かるクラウド型のものを導入する必要は全くありません。

だから、「目的」。
もっと書くと、「使用者が確認(現認)」するのが、本来の筋。

自己申告の場合も、「調整、補正」をするよう求められているのです。業種・職種によって、タイムカードなどの記録をそのまま使える場合、使えない場合があるのは、誰でも分かることでしょう。

場所がショップ、働く人がパートタイマーさんなら、打刻・時刻記録のママでOK。オフィスは、打刻・時刻記録では…。工場も、個別なのか一斉ラインなのか…。

「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)」

大阪社労士事務所・労働時間の適正な把握、ベストな選択→クリックで厚生労働省ウエブサイトに移動します

(抜粋)
ガイドラインの主なポイント
○ 使用者には労働時間を適正に把握する責務があること

[労働時間の考え方]
○ 労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たること
○ 例えば、参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間は労働時間に該当すること

[労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置]
○ 使用者は、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録すること
(1)原則的な方法
・ 使用者が、自ら現認することにより確認すること
・ タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること
(2)やむを得ず自己申告制で労働時間を把握する場合
① 自己申告を行う労働者や、労働時間を管理する者に対しても自己申告制の適正な運用等ガイドラインに基づく措置等について、十分な説明を行うこと
② 自己申告により把握した労働時間と、入退場記録やパソコンの使用時間等から把握した在社時間との間に著しい乖離がある場合には実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること
③ 使用者は労働者が自己申告できる時間数の上限を設ける等適正な自己申告を阻害する措置を設けてはならないこと。さらに36協定の延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、労働者等において慣習的に行われていないか確認すること
○ 賃金台帳の適正な調製
使用者は、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければならないこと

管理職の労働時間把握は、安衛法が根拠

管理職は、労働基準法では、労働時間や休日などが適用除外になっています。働き方改革関連法でも、何も変わりません。
(管理職≒労働基準法の管理監督者とします。)

管理職や裁量労働制の適用者も、ガチガチでは無く、取りあえず労働時間の把握をしましょうと言うこと。健康配慮の面からは当然。

もっとも、管理職が果たして労働基準法での管理監督者に該当するのか、裁量労働制の適用者であっても裁量が実際にあるのか、本来はチェック、確認する必要はあります。
(これを書いてしまうと、管理職は誰も管理監督者ではないという結論に至ってしまう可能性もありますが…。)

まずは、労働時間の社内ルールを作るところから

ガイドラインを作成して、それをもとに運用するのが安心できるかなと思います。

労働時間のガイドライン、必要な項目は?

  • 出勤・退勤の基本的なルール
    タイムカードなどの記録と労働時間(始業終業)とされる時間との差は、感覚的には15分くらいまででしょうか。
  • 社内の施設は、会社のモノ
    会社の許可無く、会社設備を使って良いことではない。自己啓発もアウト。
  • 時間外・休日の労働ルール
    ベタなやり方は、命令や伺い・承認で。ペーパーでも、勤怠管理システムの機能を使っても、どちらでも。業種・職種に合わせて~。
  • 36協定は、適切か(この時点で、相当多くの企業様がアウト)

36協定が適切・適法に締結されていなければ、そもそも時間外や法定休日に労働させることができません。労働者側の締結当事者が適当なのか、場合によっては、この時点で無効。そして、事業所ごとの締結、労働基準監督署への届出。届出も、有効期間の前に届け出ないと。で、周知しているのか。36協定(36協定届で代替の場合も)の周知を行っている企業様は、中小企業では肌感覚としてごく少数かと。

労働時間のガイドラインは、就業規則と整合制が取れていること。そして、管理職だけで無く、全社員・全従業員に労働時間のガイドラインを配布するくらいが最低限の対応です。

労働時間の適正な把握方法のベストは?

それは、企業様のご事情によって異なります。

業種、職種、従業員数、雇用形態、事業所数などによって、ベストな労働時間管理・勤怠管理の方法は違います。

まずは、ご相談ください。

  • 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
     ★クリックで全文を読めます
    • 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドライン

      1 趣旨
      労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有している。
      しかしながら、現状をみると、労働時間の把握に係る自己申告制(労働者が自己の労働時間を自主的に申告することにより労働時間を把握するもの。以下同じ。)の不適正な運用等に伴い、同法に違反する過重な長時間労働や割増賃金の未払いといった問題が生じているなど、使用者が労働時間を適切に管理していない状況もみられるところである。
      このため、本ガイドラインでは、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置を具体的に明らかにする。

      2 適用の範囲
      本ガイドラインの対象事業場は、労働基準法のうち労働時間に係る規定が適用される全ての事業場であること。
      また、本ガイドラインに基づき使用者(使用者から労働時間を管理する権限の委譲を受けた者を含む。以下同じ。)が労働時間の適正な把握を行うべき対象労働者は、労働基準法第41条に定める者及びみなし労働時間制が適用される労働者(事業場外労働を行う者にあっては、みなし労働時間制が適用される時間に限る。)を除く全ての者であること。
      なお、本ガイドラインが適用されない労働者についても、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があること。

      3 労働時間の考え方
      労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。
      そのため、次のアからウのような時間は、労働時間として扱わなければならないこと。
      ただし、これら以外の時間についても、使用者の指揮命令下に置かれていると評価される時間については労働時間として取り扱うこと。
      なお、労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであること。また、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものであること。
      ア 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
      イ 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)ウ 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

      4 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置
      (1)始業・終業時刻の確認及び記録
      使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・ 終業時刻を確認し、これを記録すること。
      (2)始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法
      使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。
      ア 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
      イ タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。
      (3)自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置
      上記(2)の方法によることなく、自己申告制によりこれを行わざるを得ない場合、使用者は次の措置を講ずること。
      ア 自己申告制の対象となる労働者に対して、本ガイドラインを踏まえ、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
      イ 実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、本ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行うこと。
      ウ 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。
      特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。
      エ 自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。
      その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。
      オ 自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。このため、使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。
      また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。
      さらに、労働基準法の定める法定労働時間や時間外労働に関する労使協定(いわゆる 36 協定)により延長することができる時間数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間を管理する者や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認すること。
      (4)賃金台帳の適正な調製
      使用者は、労働基準法第 108 条及び同法施行規則第 54 条により、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければならないこと。
      また、賃金台帳にこれらの事項を記入していない場合や、故意に賃金台帳に虚偽の労働時間数を記入した場合は、同法第 120 条に基づき、30 万円以下の罰金に処されること。
      (5)労働時間の記録に関する書類の保存
      使用者は、労働者名簿、賃金台帳のみならず、出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類について、労働基準法第 109 条に基づき、3年間保存しなければならないこと。
      (6)労働時間を管理する者の職務
      事業場において労務管理を行う部署の責任者は、当該事業場内における労働時間の適正な把握等労働時間管理の適正化に関する事項を管理し、労働時間管理上の問題点の把握及びその解消を図ること。
      (7)労働時間等設定改善委員会等の活用
      使用者は、事業場の労働時間管理の状況を踏まえ、必要に応じ労働時間等設定改善委員会等の労使協議組織を活用し、労働時間管理の現状を把握の上、労働時間管理上の問題点及びその解消策等の検討を行うこと。


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