裁量労働制とは

研究開発、事業の運営に関する事項についての企画、立案など、その性質上、遂行の方法や時間配分などに関し、大幅に従業員に任せる必要があるため、会社が具体的な指示をすることが適さない業務があります。

それらの業務をする従業員に対し、労使協定や労使委員会の決議により、実際の労働時間に関らず一定時間働いたとみなす制度です。

裁量労働制には、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制があります。

専門業務型裁量労働制とは

専門業務型裁量労働制は、業務の性質上、その遂行の方法を大幅に従業員の裁量にゆだねる必要があるため、業務の遂行手段および時間配分の決定などに関し、具体的な指示をすることが困難な業務が対象になっています。

具体的には、次の業務です。

  1. 新商品、新技術の研究開発または人文科学・自然科学の研究の業務
  2. 情報処理システムの分析・設計の業務
  3. 新聞・出版の事業における記事の取材・編集の業務、放送番組の制作のための取材・編集の業務
  4. デザイナーの業務
  5. 放送番組、映画等の製作の事業におけるプロデューサーまたは、ディレクターの業務
  6. コピーライターの業務
  7. システムコンサルタントの業務
  8. インテリアコーディネーターの業務
  9. ゲーム用ソフトウエアの創作の業務
  10. 証券アナリストの業務
  11. 金融工学等の知識を用いる金融商品の開発の業務
  12. 大学での教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る)
  13. 公認会計士の業務
  14. 弁護士の業務
  15. 建築士(一級建築士、二級建築士、木造建築士)の業務
  16. 不動産鑑定士の業務
  17. 弁理士の業務
  18. 税理士の業務
  19. 中小企業診断士の業務

専門業務型裁量労働制を導入するために

専門業務型裁量労働制を導入するためには、従業員の代表者(従業員の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、ないときは従業員の過半数を代表する者)と労使協定を締結し、所轄労働基準監督署へ届出なければいけません。また、労使協定の内容を従業員に周知する必要があります。
 
労使協定で定めること

  1. 対象業務の範囲
  2. 対象従業員の範囲
  3. 1日のみなし労働時間数
  4. 業務の遂行方法、時間配分の決定などに関する具体的な指示をしないこと
  5. 労使協定の有効期間
  6. 対象従業員に対する健康・福祉確保措置
  7. 対象従業員からの苦情処理のための措置
  8. 6.7.に関する記録を、有効期間中およびその後3年間保存すること

専門業務型裁量労働制の導入にあたっての注意点

  • 労働時間について
    専門業務型裁量労働制では、実際の労働時間に関らず、1日あたりの労働時間が労使協定により定められています。しかし、深夜業、休日労働、休憩についての適用を除外されるわけではありません。深夜業や休日労働を行った場合は、割増賃金が必要です。
  • 業務の遂行方法、時間配分について
    労使協定で、業務の遂行方法、時間配分の決定などに関する具体的な指示をしないことを定めているように、会社が従業員に対して、具体的な指示をすることができません。遅刻や早退について賃金をカットするということはできなくなります。また、対象業務であっても、プロジェクトチームを組み、チーフの指揮命令のもと仕事をする場合や、アシスタントなどは、専門業務型裁量労働制を採用することができないので注意が必要です。

企画業務型裁量労働制とは

企画業務型裁量労働制は、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査、分析の業務であって、業務の性質上、その遂行の方法を大幅に従業員の裁量にゆだねる必要があるため、業務の遂行手段および時間配分の決定などに関し、具体的な指示をしない業務が対象になっています。

たとえば、次の業務が対象です。

  1. 経営企画
  2. 人事労務
  3. 財務・経理
  4. 広報
  5. 営業企画
  6. 生産企画

企画業務型裁量労働制を導入するために

企画業務型裁量労働制を導入するためには、労使委員会を設置し、労使委員会の委員5分の4以上の多数により決議し、その内容を所轄労働基準監督署へ届出なければいけません。また、労使委員会での決議について、対象従業員だけでなく、すべての従業員に周知する必要があります。

労使委員会について
労使委員会は、会社の労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対して意見を述べることを目的としています。

労使委員会の設置方法

  1. まず、労使で話し合い
    労使委員会を設置するにあたり、会社と従業員の過半数を代表する者または労働組合は、次の事項について十分話し合い、決めます。
    1. 労使委員会の設置に係る日程
    2. 労使委員会の設置に係る手順 等
  2. 労使各側の代表委員の選出
    労使委員会の委員に関する要件は次のとおりです。
    1. 従業員を代表する委員と会社を代表する委員で構成されていること
    2. 従業員を代表する委員が半数以上占めていること
    3. 従業員を代表する委員は、過半数組合または過半数代表者に任期を定めて指名されていること
  3. 運営のルール決定
    労使委員会の運営のルールを定めます。
    ·委員会の招集、定足数などの委員会の運営に関する規程作成
    ·上記規程の作成、変更には委員会の同意が必要であること
    ·委員会の開催のつど、議事録作成し、3年間保存
    ·委員会の委員であることを理由に不利益な取扱いをしないこと

労使委員会で定めること

  1. 対象業務の範囲
  2. 対象従業員の具体的な範囲
  3. 1日あたりのみなし労働時間数
  4. 対象従業員に適用する健康・福祉確保措置
  5. 対象従業員からの苦情処理のための措置
  6. 本人の同意の取得、不同意者の不利益取扱いの禁止に関する措置
  7. 決議の有効期間の定め
  8. 上記4.5.6.などに関する記録を有効期間中およびその後3年間保存すること

企画業務型裁量労働制の導入にあたっての注意点

  • 労働時間について
    企画業務型裁量労働制では、実際の労働時間に関らず、1日あたりの労働時間が労使委員会により定められています。しかし、深夜業、休日労働、休憩についての適用を除外されるわけではありません。深夜業や休日労働を行った場合は、割増賃金が必要です。
  • 企画業務型裁量労働制の対象従業員について
    企画業務型裁量労働制の対象となる従業員は、対象業務を遂行するための知識、経験を有する従業員となっています。そのため、新入社員や単純作業の事務員には適用できません。また、対象となる従業員の選出には従業員本人の同意を個別に得ることが必要となっています。これは、企画業務型裁量労働制を望まない従業員への適用を防止するためです。同意しなかった従業員に対し不利益な取扱いをしてはいけません。
  • 定期報告
    企画業務型裁量労働制を導入した場合、会社は決議が行われた日から6か月以内ごとに1回、労働基準監督署へ定期報告を行わなければなりません。
    定期報告をする内容は、次のとおりです。
    ・対象となる従業員の労働時間の状況
    ・対象となる従業員の健康および福祉を確保するための措置の実施状況
  • 派遣労働者への適用
    派遣労働者に企画業務型裁量労働制を適用することはできません。

裁量労働制のまとめ

専門業務型裁量労働制は、比較的使いやすい労働時間制です。
業務・職種が限定されているため、恣意的な運用をしない限りは、従業員のニーズにも合った制度と言えます。

一方、企画業務型裁量労働制は、労使委員会の設置や労基署への報告義務が、適用を思いとどませるかと思います。すなわち「面倒」です。

労使委員会の5分の4以上の多数による決議では導入要件が厳しすぎるとの声が多くあります。いったん導入すると、活力のある経済社会を実現していくために、事業活動の中枢にある従業員が、創造的な能力を十分に発揮できるような事業場、環境づくりのため、仕事の進め方や労働時間の配分等に関して主体的に働ける制度として定評があります。

どちらにしろ、労働時間管理(自己管理)が必要なこと、企業・会社が健康に配慮することなど、注意すべき点はあります。裁量労働制だからと言って、現状では、36協定の対象外になったり、無制限な時間外労働が認められているわけではありません。



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