労働基準監督官がやってきた
(安全監督や申告監督ではない、いわゆる普通の調査を想定しています)
労働基準監督署の調査(臨検)は、ある日、労働基準監督官が急に会社に来ることから始まります。
定期的な場合(定期監督)であれば、事前の連絡は無いのが普通です。
まずは、会社名の確認から始まります。
そして、人事労務のご担当者の確認をされます。
人事労務のご担当者がいないままでは、調査の中身が無くなってしまうので、多くの場合、人事労務担当者が不在の場合は、再度訪問となります。
人事労務担当者がいても、就業規則や36協定を始めとする書類の在りかが分からないといけませんので、普段から整理整頓が望まれます。
調査の受け方
調査(臨検)は、拒否してはいけません。
「今、人事労務の担当者がいないので無理です」と言っても、調査を行うのか否かは、労働基準監督官の心が決めます。
労働基準監督官は、労働基準法や労働安全衛生法などの法律に関しては、「司法警察員」の身分を有しています。いわば、「労働法の警察官」です。
会議室や応接室で対応されることが多いと思います。
多くの場合、次の書類を集めてくるよう指示があります。
- 会社の概要、組織図
- 就業規則などの社内規程一式
- 36協定ほか協定類
- 法定3帳簿(労働者名簿、出勤簿・タイムカード、賃金台帳)
- 労働条件通知書(写し)または労働契約書
そして、その後は、書類を見ながら、ヒアリング(インタビュー)が始まります。
「具体的にどんな事業を行っていますか?」
「支店や工場、営業所は、どの程度ありますか?」
「派遣社員さんは、いらっしゃいますか?」
「パートタイマーさんの就業規則は、作っていないですか?」
「健康診断は、最近何時されましたか?」
などなど、人事労務担当者にとってはイヤな時間が続きます。
労働基準監督官が電卓を取り出すと、40時間チェックか、残業代の確認か、そのあたりです。
こういう風にした方が良いですね、と言われてムッとしたり怒ったりしてはいけません。何しろ「労働法の警察官」です。
間違っても「書類を隠す」「書類を渡さない」は最悪の対応です。
是正勧告書・指導票を渡された
是正項目が少ない場合は、その場で「是正勧告書」を渡されます。
是正項目が多い場合や内容について労基署内部で確認が必要な場合は、後日「是正勧告書」を渡されます。
是正勧告書を渡されずに「指導票」だけ渡されたり、是正勧告書とともに「指導票」を渡されることがあります。
「是正勧告書」にある是正勧告は、左端に労働基準法や安衛法○○条とあるように、明らかな法律違反に対して行われます。
「指導票」の指導は、法律違反にまでは至らないが、今後労務管理上問題となったり、通達に違反しているような事項に対して指摘されます。
どちらも、報告書(是正や改善の報告)の期限が決められますので、その期日までには報告書を提出します。
作成や対処について不明な点が有れば、労働基準監督署へ尋ねるか、社会保険労務士に依頼するのが現実的です。
是正報告書の作成の方法
是正勧告を受けた項目、指導を受けた項目に沿って、対応・対策を決めます。
- やっていなかった
「今後します」という表現になります。
- 提出されていない
「○月○日提出しました」ですが、是正報告書と同日付けで出す方が分かりやすいです。
- 賃金の未払い関係
「○月○日払いました」となります。振込依頼書の控えや支給明細書などの写し(コピー)を資料として添付します。
やっかいなのは、最近非常に多い「時間外労働を削減してください」(指導項目)です。実際にどうすれば、時間外労働が削減できるのか、アクションプランを考えて実行に移します。
是正項目や改善項目については、必ず「是正した」「改善した」事実が分かる証拠書類を念のためコピーして、労働基準監督官に見ていただきます。担当官とは、労基署への訪問日時について打ち合わせておくのが望ましいです。
社会保険労務士に依頼した場合は、監督官との打ち合わせもやってくれるケースが多いと思いますので、時間の節約になります。
是正勧告の対応は、簡単には「法律をきっちり守ろう」という姿勢が大事です。
労働基準監督官にチェックされる主な事項
- 就業規則関係
- 10人以上の従業員数にもかかわらず、届けていない
- 古い就業規則しかない(変更の届が出されていない)
- 賃金関係
- 賃金台帳の記載項目の誤り
- 残業代の不払い
- 残業代単価の計算誤り
- 賃金控除協定なし
- 諸手当の支給基準・支給内容が不明確
- 労働時間関係
- 36協定の不存在
- 36協定の未更新・未提出
- 労働時間・残業時間の未把握
- 安全衛生関係
- 定期健康診断の未受診
- 設置義務のある有資格者(例えば、衛生管理者)の未配置
- 各種委員会の未開催
- その他
- 労働条件の明示義務違反
- 従業員、労働組合などから指摘のあった事項
- その年ごとの重点指導テーマ
是正勧告よくある質問
Q.「実は、半年前にも、是正勧告書を受け取っています……」
A.今回は、期限までにしっかり対応しましょう。
何度もほっておくと、労働基準法違反で告発されたりして、司法の裁きを受けることになります。お早めに、書類等は作成された方が良いでしょう。
Q.「期限まで時間がないのですが、就業規則を作っている余裕がありません」
A.時間的なことについては、理解できますが、「就業規則」がない状態自体が法律違反になっています。違法状態を労働基準監督署では、見過ごすことができないからです。期限の延長が可能な場合もあるので、一度担当官に相談してください。
Q.「時間外労働協定を作れ、と言われたのですが、作成の仕方が分かりません」
A.労働基準監督署に、時間外労働協定(36協定)の簡単なパンフレットがありますので、それを参考に作成してください。36協定届に、会社側、従業員側の双方が押印すれば、できあがりです。監督署の窓口でも、相談に乗ってもらえます。
Q.「労働基準監督官が来られても、東京支店に人事労務担当者はおらず大阪本社にしかいないのですが」
A.労働基準監督官と相談してください。
大阪本社の担当者でないと無理なのか、書類の在りかが分かっているのか、それで十分な場合もあります。
Q.「どのような基準で、調査される会社は選ばれているのでしょうか?うちの会社は毎年、労働基準監督署の方が来られます」
A.どこの労働基準監督署でも同じですが、会社・事業所(事業場)の数に比べて労働基準監督官(調査する人)は少ないのです。
おおよそ次のような基準で、調査されると聞いています。
- 従業員数30人以上の会社・事業所
- 工場や建設現場を持つ会社・事業所
- 最近、1カ月以上の休業のあった労災事故のあった会社・事業所
- 従業員や労働組合から指摘のあった会社・事業所
根拠となる法令
労働基準法に労働基準監督官の権限について記載があります。
(労働基準監督官の権限)
第101条
労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。
2 前項の場合において、労働基準監督官は、その身分を証明する証票を携帯しなければならない。
第102条
労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う。
第103条
労働者を就業させる事業の附属寄宿舎が、安全及び衛生に関して定められた基準に反し、且つ労働者に急迫した危険がある場合においては、労働基準監督官は、第96条の3の規定による行政官庁の権限を即時に行うことができる。
(報告等)第104条の2
(1項省略)
2 労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
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