裁量労働制を実質拡大、それ教えて

「桑野さん、日経新聞に載っていた、あの記事について教えて。」
と、お客様から電話。

日本経済新聞の『あの記事』平成29年8月2日付

 トヨタ自動車は自由な働き方を認める裁量労働の対象を広げる方針を決めた。法律が定める裁量労働制の業務よりも幅広い事務職や技術職の係長クラスを対象とする新制度案を労働組合に提示。残業時間に関係なく毎月45時間分の手当を支給するほか月45時間を超えた分の残業代も支払う。政府で議論が進む「脱時間給」の要素を現行法の枠内で先取りする。
(途中省略)
 対象は事務や研究開発に携わる主に30代の係長クラス(主任級)の総合職約7800人。非管理職全体の半数で新人など若手社員は除く。本人が申請し会社が承認する。トヨタは既に裁量労働制を導入しているが、主任級では約1700人にとどまっていた。

 新制度では残業時間に関係なく月17万円(45時間分の残業代に相当)を支給する。月17万円の支給額は一般的な主任職の裁量労働手当の約1.5倍。過去の人事・給与体系の移行措置で残った調整給などを原資に充てるもようだが、対象者が想定を上回ると人件費が増える可能性もある。

 一般的に残業代を追加支給しない裁量労働制とは違い、新制度は会社が勤務実績を把握し月45時間を超えた分も支払う。所定労働時間を守っていれば週に2時間以上出社すればよく、在宅勤務も可能だ。

 過重労働を防ぐため、健康管理にも配慮する。対象者には夏季休暇や年末年始などの連休以外にも平日に5日連続の休暇取得を義務付ける。未達成の場合は翌年から対象から外れる。残業時間が一定水準を超えた場合は健康診断も受けさせる。

 労働基準法では労働時間を1日8時間、週40時間と定めている。トヨタは労使で結んだ「36(サブロク)協定」で残業を認めている。原則「月45時間、年360時間まで」だが、繁忙期の超過を認める特別条項付きの36協定を結んでおり、新制度はこの範囲で運用する。新制度では上司が対象者に時間の使い方の権限を移す。繁忙期に備え残業の上限時間を月80時間、年540時間に広げる方向で組合と議論する。

お客様の担当部長が知りたかったことは、次の3つ。

  1. この制度は、自社で導入している固定残業制と何が違うのか?
  2. この制度は、「脱時間給」なのか?
  3. 月80時間まで残業が認められるなら、自社でも特別条項付き36協定を結びたい(締結し直したい)

お客様の質問に対して、真摯に対応します。

  1. 「これは、固定残業制・定額残業制です」
    担当部長の反応は、「えっ」という感じでしたが、日経新聞さんが1面で出したことで、信頼度が高かったようです。記事の内容自体は、時間外45時間までの固定残業代と、45時間を超えた場合に追加で残業代を支払う←当たり前です。
     部長は電卓を叩いて計算していたようですが、割増率を25%で計算しては、たぶんダメです。以前入手した情報では、もっと高いです。最低の法定割増率よりも、少し上です。
     
  2. 「脱時間給」ではなく、まるまる「時間給」の発想です。
    裁量労働制って、法律で決められています。これは、手続きのところに「本人の申請と会社の承認」とあります。つまり、自律的に働くことのできる社員だけが、この新制度を適用できるのでは。労働時間「本人の裁量で決める」とは、おそらく「事後申請のような形で、1か月まとめて時間外を報告する」?
     成果=賃金ではなく、「労働時間の長短=賃金」の発想です。
     
  3. 「特別条項は、できるだけ避ける方向で。」
    まずは、原則の上限時間で対応できるのか。貴社所定休日の土曜日の出勤が多くなるのであれば、それはアレで対応しましょう。振替休日・代休はイヤですので、極力ご利用は控えて欲しいです。
    (特別条項については、当然のことながら何度かレクチャーしております。アレって、詳細を知りたい場合は、個別にお問い合せください。)

担当部長「いや、トヨタさんは違いますね。桑野さんの話だと、月60万円超えますね。それプラス、ボーナスでしょ。人件費、大変そうやね。」
私「たぶん、今までも残業代払っているでしょうから、思うほど人件費は増えないのでは。全くゼロのはずがないでしょうから。(残業無しなら、特別条項が要らないです。)」

部長は、納得されたのか、お盆明けで何か桑野の声を聞きたいと思ったのか、それは分かりませんが、電話はゆっくりと切れました。

個人的に、この記事に対しては、いくつか疑問があります。

  • プレスリリースされていない、適用されていない人事制度ですよね…方針だけ…意図が…。
  • 労働時間管理を社員の自主的な管理にまかせることは構わないが、今までの、いわゆる自己申告制に過ぎず、何が新しいのか。自己申告制は、キッチリ運用できていれば、問題ナシ。
  • 裁量労働制を実質拡大」より、より「時間給制に向いた」とした方が面白かったのかも。財界のご事情があったのでしょうか。

正直なところ、あまり、お客様には関心を持って欲しくない記事でした。


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