適格退職年金の廃止
平成24年3月末で、税制適格退職年金(適格年金、適年:てきねん、とも言います)は制度が廃止されます。
現在はその移行期間であり、「退職給付(退職一時金・退職年金)をやめるのか」あるいは「退職給付制度は残し、他の制度への移行をするか」の選択を迫られています。
ここでは、適格年金をどうすればよいのか、完全に退職給付制度は廃止する方が良いのか、残した方が良いのかを検討し、参考となる手法と退職給付制度についての考え方を記載しています。
このページは、現在「税制適格退職年金」に加入している企業様やその関係者様が対象ですが、これから「退職給付制度(退職一時金・退職金・退職年金・確定拠出年金)」を考えておられる企業様にとっても、参考になりうると考えております。
中小零細企業様を対象に読んでいただこうと思っていますので、大企業様にとっては該当しないケースがあります。
※税制適格退職年金(適格年金)は、本来は年金であるものですが、受給者(退職された従業員)は「一時金」も選ぶことができるので、いわゆる「退職金」(退職一時金)としての機能を果たしています。
適格退職年金のココが問題
- 積立不足が1番の問題です
過去に生命保険会社・信託銀行は、適格年金に加入してもらいたいがために、掛け金(保険料)を計算し安めに見積もっていました。
それは、運用利率が、高い時代は良かったのですが、現在は運用状態が芳しくありません。そのため、退職年金の積立不足が生じるようになってきました。
加入当時の5.5%の利率で運用できないのであれば、現在の掛け金でやっていけず、掛け金は増額する必要があります。
- 退職給付制度の上方硬直化が問題
世間は、「成果主義」「能力主義」ですが、適格年金は制度上、従業員間に極端な差をつけることができません。
結果として、年功的な制度となってしまい、成果や業績に応じた給付にすることが困難な状態です。
- 中小企業には関係のない、退職給付会計の導入が問題
退職給付会計は、「上場企業・資本金5億円以上の企業・負債200億円以上の企業」に導入が義務づけられましたが、今後は中小企業にも導入される可能性があるほか、金融機関が融資審査の段階で退職給付会計についても目を光らせる可能性が高くなります(=資料を要求される場面が想定されます)。
- 高年齢者層の増加が問題
著名な先生がいうところの「退職金倒産」が現実のものとなっています。
定年退職者がいるにもかかわらず、退職金(退職一時金・退職年金)の積立金がない、そう言う状態が迫ってきています。
積立不足だけでなく、退職給付に対する考えを変える必要があります。
平成18年4月からの高年齢者雇用義務化の影響も無視できません。
- 退職給与引当金が廃止されたことが問題
要するに、社内での退職給付の積立をする場合、益金として税金が課せられることになりました。そのため何らかの制度(公的退職金積立制度か生命保険会社の福利厚生プランなど)へ積立制度を変更する手続を要します。
退職給付を残すか無くすか
退職給付制度の完全廃止か、存続して他制度への移行かを、最初に検討します。
- 退職給付制度の完全廃止
○将来に向かっての債務減少
×退職給付制度廃止に伴う不利益変更への対応、福利厚生制度の低下、従業員のモチベーション低下、従業員の将来的不安感の増大、長期雇用の否定
- 他制度への移行の場合
○福利厚生制度の維持、従業員の将来的不安解消、直接的な不利益変更の対応が不要、など
×将来に向かっての債務が減らない、移行手続が複雑かつ面倒
適格退職年金を移行
適格退職年金から移行できる制度
- 中退共(ちゅうたいきょう)
適格年金からの移行制度として、候補ナンバー1。助成制度があり、政府の特殊法人が運営しているため結果として安全性も高い。一時金としてだけでなく、分割(年金)形態での受取も可能。ある意味、確定拠出型退職年金である。 - 特退共(とくたいきょう)
制度的には、中退共とほぼ同じ。掛け金が、1000円から認められるほか、短期の退職にも対応する。商工会議所・商工会で手続をするが、運営は生命保険会社が委託。
【直接の移行はできません。】 - 生命保険会社の福利厚生プラン
生命保険会社が提案する退職給付準備制度の代表的なもの。運用は、もちろん各社によって違う。事業資金の一時的な借り入れとして使うこともでき、経営者様からの人気はむしろ中退共より高い。賃確法対象外。
【直接の移行はできません。】 - 確定拠出型年金(401k、DC)
「掛ける金額だけ決まっている」退職年金制度。中小企業にとっては、毎年の投資教育の経費や退職年金が原則60歳以後しか引き出しできないこともあって、他の制度(退職一時金)が整っている場合のみおすすめ。 - 確定給付年金(DB)・厚生年金基金・キャッシュバランスプラン(CB)
直接移行できるが、中小零細企業にとっては、検討の対象外。財務基盤に余程の余裕がない限り、移行対象に含めるべきではありません。 - 自社(社内)積立=有税積立
退職給与引当金の廃止で、社内で退職金を積み立てた場合は、課税されることとなり、特殊な事情がない限り、おすすめしません。事業資金の有効活用の点から適切ではないと思われます。
適年移行のポイント
- 中小企業であれば、かつ現在中退共に加入していないのであれば、中退共への移行が、手続き的にはもっとも楽です。
- 赤字が継続している場合、すぐにでも移行または解約=退職金制度の廃止を考えます。
- 従業員の入退社が激しい場合は、特退共への移行がおすすめです。【直接の移行はできません。】
- 適年積立金が非常に少ない場合は、従業員に所得税・住民税が課せられない残高であれば、いったん解約も考慮に入れます。
- 退職金の支給水準を必ず見直してください。
中退共へ移行する
理由は別として、中退共への移行が、時間的にも無理がありません。とりあえず、代表的な理由を列記します。
- 中退共への移行時には、追加の費用負担が不要だから。
- 中退共の指示どおりに書類を作成すれば、移行できてしまうから。
- 全額移行ができるようになって、使い勝手が増したから。
手順は、次のとおりです。
- 幹事会社に「中退共へ移行する」旨を連絡します。
- 中退共へ移行する旨を連絡します。
- 中退共から移行に必要な書類が送付されますので、各従業員へ確認・押印してもらい、確認・もろもろ記入後、中退共へ送り返します。
- ○月から移行する旨(引き落としの連絡)があり、完了
全く問題なくスムーズに行った場合で、3か月かかります。
中退共の掛金は、退職金の支給額・自社の財務基盤・今後の経営状況などを総合的に判断して、決めていただきます。
(現時点での経営状況が良くないのであれば、できるだけ安い掛け金で!)
適年関係の社内規程・事務手続き
- 適格退職年金に関しての「退職年金規程」は、必ず廃止してください。
- 給付水準を見直した場合は、新しい「退職金規程」を作成します。過去の給付との調整をどのようにするのか、規程上に文言で表します。
- 不利益変更の時(給付水準を切り下げる)は、「不利益変更に関する同意書」類は、個別に徴します。従業員を集めての説明会を開いた際に、「同意書」類を配布しておきます。
- 調整の条文は、市販の適年移行の書籍には、掲載されていません。移行手続自体は自社で対応されても、条文に関しては、弁護士の先生か顧問社会保険労務士等に確認していただくよう、強くおすすめします。
- プラスαの退職金を出す場合は、生命保険会社の福利厚生プランへのご加入を検討します。
税制適格退職年金(適格年金)よくある質問
Q.「なぜ、そんなに移行を急がないといけないのですか?」
A.制度の廃止まで、時間がないからです。
スムースに移行ができるとは限っていません。従業員説明会を考慮すると、半年6か月は移行完了までかかると思ってください。
Q.「中退共に移行すると、事業資金として使えないでしょう」
A.確かにそうです。
ただし、適格年金にしても同じような状態だったはずです。事業資金として使う場面を考えるのであれば、生命保険会社の福利厚生プランなどをおすすめします。
Q.「不利益変更への対処について、教えて欲しい」
A.これは、各企業様のご事情により変わってきます。
黒字の企業様、赤字の企業様でもちろん対応が変わりますし、賃金・人事制度全般を考えて、対処していただくしかありません。
Q.「直前になって、適年を残す経過措置が発動されるのではないですか?」
A.そうは、考えにくいです。
もともと10年間の猶予期間が与えられましたので、都合の良い発想は厳しいかと思います。
Q.「平成24年3月末までに移行したいと思いますが、タイムリミットはいつでしょうか?」
A.企業規模、事業所数、財務基盤によって変わります。
従業員数が、一ケタの企業様であっても平成23年11月ごろまでに着手しないと移行できないケースも考えられます。
Q.「従業員説明会や同意書は必要ですか?」
A.労務リスクを減らすために、説明会や同意書があります。
必要かどうかは個別の企業様の状況に因りますが、明らかな制度変更ですので、従業員の関心も高いでしょうから、やるべきことはやっておいた方が良いでしょう。
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