ベトナムの労働法」は、研究テーマですので、この内容をもとにベトナムの労働法について行動、判断することはおすすめできません。作成時期2008年

ベトナムの労働法

ベトナムでは労働関係法として、労働法、労働組合法、不服申立法、社会保険法、労働安全法、男女平等法、環境法の七法がある。

また、ベトナムは、2007年1月11日にWTOに加盟し、世界経済の本格的な渦中に巻き込まれることになった。ベトナムが特に資本主義経済に組み込まれる過程として、日系企業経営者がベトナムでは絶対に起こらないと信じていた日系企業での多くの違法ストライキも南北ベトナムで発生している。

ベトナムでの労使紛争の現状

現在、ベトナムの労働人口で18歳から35歳の若年層が占める割合は70%と非常に高く、中卒と高卒が占める割合は71%。そのうち中級以上の職業訓練を受けた労働者の比率は32%である。

しかし最近は、労使紛争/ストが多く発生している。
原因は幾つかあるが、まず一部の企業ではあるが、ベトナムの国内法規や政策を守らないこと。二つ目には、賃金やボーナス、年次休暇、有給休暇、危険手当、女性労働保護など規則を守らないことがある。

一方、労働者も労働関係の法的知識が非常に浅いことも挙げられる。
日系企業にかかわる問題としては、企業は賃金の内訳を非公開にしてしまう傾向がある。対して、ベトナム政府は各企業に対して賃金表、昇給表というものを明らかにするように求めており、両者の意見が全く異なる。これは労働者、外国投資家双方にとって、早期解決を要する重大な問題である。

紛争解決手段としては、単組レベルでは、係争問題調停委員会があり、単組レベルの調停委員会で問題が和解できない場合は、省レベルの調停委員会に付託する。1995年以来、全国で1,800件のストが発生したが、雇用主が組合を訴えたことはない。要するに、雇用主側が法律違反を多く犯しているという証しでもある。

次に労働協約と労働契約の締結、そして良好な労使関係維持という問題がある。

現時点では、労働協約を締結している企業は46%。
また、40%以上の労働者が無期限の労働契約締結できている。残りの60%は3年以下の労働契約になる。組合にとって団体労働協約を結ぶことはとても難しい。企業側が取締役会のメンバーを頻繁に変えるため、例えば第1段階ではきちんと話し合いが進んだのに、第2段階に入るとメンバー交替のため、また話が頓挫してしまい、協約締結に至るまで非常に長期間を要する。

こうした中、多くの雇用主が組合に理解を示し始めている。
しかし、個別争議が起きると、裁判の場でそれを争わねばならず、最近では、ドン・ナイ省だけで40件の係争があり、90%以上が組合側の勝訴で、雇用側には労働者に数十億ドンの賠償金支払い命令が出ている。
要するに、現在のベトナムにおける労使関係は、まだ始まったばかりのことが多いということである。

ベトナムの労働事情と人材確保

都市部では人材不足だが全体としては余裕があるのが現状である。

ベトナム投資計画省によると、2005年の日本からの対ベトナム直接投資認可額は408百万ドルで、認可件数は過去最高の97件(ともに新規投資分)にのぼった。

2000年に外国投資法が改正され100%外資による進出が認められるようになったことを背景に、近年は中小企業の進出が活発化している。

現在は1990年代中盤に続く「第二次ベトナムブーム」といわれ、工業団地はほぼ満杯となっている状況だ。

ベトナム労働法の体系および労働者・労働組合の位置づけ

ベトナム労働法の体系は17章に分かれており、一見資本主義国の労働法とあまり変わらないようであるが、内容を読み進むにつれて困惑する条項もある。

労働法の冒頭に記載されている労働組合とは、次のとおりである。

「労働階級及び勤労人民の社会的・政治的組織であり、幹部・労働者・被用者その他の労働人民の権利及び利益を監視し、保護するため政府機関、経済・社会組織の活動やその管理及び監督に参加するとともに、国家の建設及び防衛のために十分働くよう、労働者・被用者その他の労働人民を教育する役割を果たす。」
すなわち、ベトナムの「労働組合」は労働階級および勤労人民の社会的・政治的組織である。

これに対し、日本の「労働組合」は「勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体行動をする権利を保障する組織」すなわち、「労働条件の維持改善その他、経済的地位の向上を図る経済的組織」である。この点が重要な基本的相違である。

労働法第一章、労働法典の総則の特徴

  1. 適用範囲
    本労働法は全ての企業に勤める賃金労働者、および外資企業も含む全ての企業、外国又は国際組織の労働者も対象にする。ただし、公務員・人民軍・人民警察および政治的社会的組織の組合員は別な法令が適用されている。
     
  2. 勤労待遇
    何人とも性・人種・社会諸族に差別されないことを保障する。ただし、定年年齢は男性60歳・女性55歳、また労働者は労働能力のある15歳以上、雇用主は18歳以上と規定している。
     
  3. 労働者の権利と義務
    最低賃金制がある。また、労働組合の結成・加入・参加の権利を認め、事前許可取得などの法律に定めるところによりストライキ行使の権利も有する。
     
  4. 雇用者の権利と義務
    雇用者は労働者を募集・組織・指示する権利を有し、また労働者を表彰し褒賞を与える権利と同時に、労働規律違反に対し労働者への制裁を行う権利を有する。



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