フレックスタイム制とは

 フレックスタイム制(労基法32条の3)とは、1か月以内の一定期間の総労働時間をあらかじめ決めてておき、その範囲内で、毎日の始業時間と終業時間を従業員が自由に決めて働くことができる制度です。

 すなわち、原則として社員が働いているべき時間帯(コアタイム)を設け、始業・終業の決定は、会社ではなく従業員に委ねるのです。したがって、この制度では、仕事と生活の調和を図ることが可能となりますし、労働者自身が業務の繁閑に合わせて労働時間を効率的に配分するので、労働時間の短縮にもつながります。

フレキシブルタイムコアタイム 休憩 コアタイムフレキシブルタイム
△7:00           △10:00   △12:00△13:00   △15:00       19:00△
いつ出社してもよい時間必ず労働する時間いつ退社してもよい時間

例えば、通常の勤務時間帯が8時から17時までの会社では、あまり仕事がない日も、忙しくて17時以降も仕事をしなくてはいけない日も、この8時間は同じように会社に拘束されます。
1日8時間を超えると、時間外労働となるので、割増賃金が必要になります。

そこで、上図のようなフレックスタイム制を導入すると、仕事のない日は10時に出社し、15時に退社、忙しい日は7時に出社し、19時に退社、ということができます。
忙しい日に7時から19時までの11時間の労働をしたとしても、総労働時間の枠を超えなければ、割増賃金の必要はありません。

フレックスタイム制のメリット・デメリット

【メリット】

  • 従業員が仕事と生活の調和を図りながら働くことができます。
  • 従業員自身が業務の繁閑に応じて労働時間を効率的合理的に配分できます。
  • 労働時間(残業時間)を短縮できます。
  • 従業員の自主性を尊重し、意欲の向上を図ることができます。
  • 時差通勤によりストレスと疲労の削減ができます。
  • 時間意識を高め、業務効率の向上を図ります。
  • 柔軟で創造的な発想を促進します。
  • 従業員の意識の変化を促します。
  • 技術職のニーズに対応します。

【デメリット】

  • 会議や打ち合わせなどに不都合が生じやすくなります。
  • 時間のけじめがなくなることがあります。
  • 担当者の不在が生じます。
  • 出退勤時刻がバラバラになるのでコミュニケーションがとりにくくなります。
  • 照明・空調の経費がかさみます。
  • 顧客へのサービス低下の懸念があります。

フレックスタイム制の導入

 では、フレックスタイム制を導入するにはどうすればよいのでしょうか。

 まず、就業規則等において、始業および終業時刻を労働者の決定に委ねることを規定しなければなりません。

 始業・終業時刻を労働者の選択に委ねることは、フレックスタイム制の根幹であり、また、始業・終業時刻は就業規則の必要的記載事項でもあるから(労基法89条1項1号)、フレックスタイム制を採用する場合は、就業規則等において労働者の決定に委ねることを明確にするよう、労基法では定められているのです。

 次に、労使協定を締結する必要がありますが、協定では次の事項(1~4)を定めなければなりません。

  1. 対象労働者の範囲
    業務の性質等により始業・終業時刻を労働者が自主的に決定しえない場合(例えば、一定時間、常に入り口に待機していなければならない受付係)があるので、この制度を適用する労働者の範囲を明確にするよう、求められています。
  • フレックスタイム制が適している職種
    • 一人ひとりの作業分担がかなり独立的に決められている職種
    • 社員の裁量や判断が重視され、上司が細部的な指示をしなくてもよい職種
      →営業職、セールス職、システムエンジニア、プログラマー、研究職、技術職、一般事務職など
       
  1. 清算期間
    清算期間とは、その期間を平均し一週間当たりの労働時間が労基法32条1項の労働時間を超えない範囲内において労働させる期間のことをいいます。つまり、フレックスタイム制のもとで、労働時間の弾力的運用を行うための単位となる期間のことです。その長さは、1ヶ月以内の期間に限られます。
     
  2. 総労働時間
    清算期間において労働すべき総労働時間数であるが、清算期間を平均して一週の労働時間が法定時間(40時間)を超えないように定める必要があります。
     
  3. その他命令で定める事項
  • 一日の標準労働時間(年休等の際の基準となる時間)
    ・・・例えば、1日7時間30分と定めていれば、年次有給休暇を取得した場合は7時間30分勤務したものとして取り扱う。
  • コアタイム・・・コアタイムの始まる時刻・終わる時刻
  • フレキシブルタイム・・・この時間内に出退勤すべきとする時間帯。始業時間帯の開始時刻、終了時刻と就業時間帯の開始時刻、終了時刻
    • コアタイム(必ず労働をする時間)、フレキシブルタイム(始業や終業の時刻の決定を従業員に任せる時間)を設ける場合は、その開始および終了時間を定めることとなっていますが、必ず設けなければならないものではありません。
      実務的には、深夜労働時間(午後10時から翌日午前5時)を避けたり、ビルの管理の都合で、フレキシブルタイムは考慮します。
    • 始業・終業時刻どちらもその決定を労働者に委ねていなければフレックスタイム制とはいえない。

 上記要件を満たした場合、使用者は、清算期間を平均して一週の労働時間が法定時間を超えない範囲内において、一週または一日の法定時間を超えて労働させることができます。
 つまり、1日8時間・1週40時間を超えて労働者を働かすことができるのです。

 ただし、フレックスタイム制のもとでは、労働時間は精算期間を単位に労働時間が計算されるので、清算期間を通算して法定時間を超えた時間は時間外労働となり、その場合には、36協定の締結や割増賃金の支払いが必要となる点には注意を要します。

フレックスタイム制よくある質問

Q.フレキシブルタイムを設けるときのポイントは?
A.フレキシブルタイムを設けるとき、その時間帯が極端に短いと、始業や終業の時刻を従業員に任せたことにならないので注意が必要です。
コアタイムは、1日の標準労働時間の半分程度以下にしたいものです。

Q.労働時間の管理は、どうなりますか?
A.始業や終業の時刻を従業員に任せても、企業は労働時間の把握義務があります。
フレックスタイム制では、労使協定で定めた清算期間における総労働時間を超えたものが時間外労働になります。
1日あたり、1週あたりの労働時間が法定労働時間を超えても、総労働時間の枠を超えていなければ、時間外労働ではありません。
法定休日の労働は、総労働時間には含まれず、そのまま休日労働になり、午後10時から翌朝5時までの労働は、総労働時間に含まれますが、深夜労働になります。
時間外労働や休日労働、深夜労働をさせると、割増賃金の支払が必要です。

Q.休憩時間の取り扱いは、どうなりますか?
A.フレックスタイム制を導入していても、休憩の一斉付与適用除外の業種でなければ、労働時間の途中に、一斉に、自由に利用できる休憩時間を与えなければなりません。
コアタイムがあれば、その時間帯に休憩時間を設けることができます。
しかし、コアタイムがない場合、始業や終業の時刻を従業員が自由に決めるので、一人一人働く時間帯が異なり、一斉に休憩を与えることは難しくなります。
このようなときは、休憩の一斉付与を適用除外とする労使協定を結ぶことで、休憩時間を従業員に任せることができます。
その場合には、各日の休憩時間の長さと、それをとる時間帯を従業員にゆだねるということを就業規則に記載する必要があります。

Q.会議や打ち合わせ、残業を命令したいときは?
A.フレックスタイム制は、始業や終業の時刻を従業員が自由に決める制度なので、会社がそれを指定することはできません。
そのため、企業側は会議や打ち合わせの時間を指定したい場合でも、強制ではなく、自主的な参加を要請するしかできません。
同じように、残業や早朝出勤を命じることは、始業や終業の時刻を会社が指定することになり、フレックスタイム制の趣旨に反します。
これも従業員の同意を得て、自発的な意思により残業などをしてもらうだけで、強制することはできません。
もちろん、36協定の締結が必要なことは、言うまでもありません。
全員参加の会議などどうしても参加を強制したい場合には、コアタイムを設け、その時間帯に実施するのが、ベターです。
 
なお、就業規則には、会議や打ち合わせの場合には協力する旨を定めます。
出張、研修の場合にはフレックスタイム制を適用しない旨を就業規則等で定めておきます。

Q.清算期間中の労働時間に過不足があった場合は?
A.
<労働時間に過剰があったとき>
過剰時間分を次の清算期間の総労働時間に充当することは、その清算期間内における賃金の一部が支払日に支払われないことになり、賃金全額払の原則に反し、認められません。

<労働時間に不足があったとき>
総労働時間として定められた時間分の賃金を支払い、不足した時間分を次の清算期間の総労働時間に上乗せして働いてもらうことは、法定労働時間の総枠の範囲内である限り、賃金全額払いの原則に反しないので、認められます。



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