就業規則の運用
あぶない労務管理
就業規則が定められているにも関わらず、実態がその規定内容とずれてきていると、実態の方を当たり前と感じてしまいがちです。
就業規則を守らなくていい、形だけのものという意識が芽生えると、就業規則以外の部分についても違反が常態化してしまうでしょう。
こうして就業規則が機能しなくなると、歯止めが利きません。
就業規則を定めた以上、それをきちんと運用することが大切です。就業規則と実態が異なっているなら、就業規則を実態に合わせて見直すか、実態を就業規則に合わせるか、きちんと対応すべきです。曖昧なままで放っておくのが、労務管理上、最も危険です。
アブナイ具体例
具体的に考えて見ましょう。
例えば、就業規則に基づいて懲戒処分を行います。
無断欠勤が多い一人の従業員を解雇したいのですが、以前にも同様に無断欠勤が多くある従業員がいたけれど、その人は成績が優秀だったので解雇しないで無断欠勤を黙認してきてました。
この場合、無断欠勤についての就業規則の規定が有名無実になっており、裁判や労働審判の場では、無断欠勤が多いという理由では解雇を否定される可能性があります。
日頃から、何かあったときには就業規則に基づいて、きちんと運用する習慣を身に付けることが大切です。
特別な理由もないのに、人によって懲戒処分の重さを変えたり、不公平な扱いをしてはいけません。
しかも、このような不公平な処分(運用)をしていると、従業員は会社に対して不信感を抱いてしまいます。不信感をもった従業員が会社のためを思って積極的に行動することはあまり期待できません。
就業規則どおりに運用する
就業規則は、その規定どおりに運用して、初めて役に立つものです。
分かりやすい例が、こちらです。
(時間外・休日勤務および深夜業) 第○○条 業務上必要があるときは、別に定める労使協定の範囲内で、休日勤務、時間外・休日勤務および深夜業を命じることがある。 2 前項による勤務を命ぜられた者は、正当な理由なく、これを拒むことはできない。
残業をさせる場合の規定です。
シンプルですが、この規定さえ就業規則どおりに運用できていない企業が多いのです。
- 「別に定める労使協定」は、36協定を指します。時間外労働・休日労働の協定ですが、労使協定を締結し、労働基準監督署に届けていることが必要です。
- 「労使協定の範囲内で」は、36協定には延長の限度時間があるので、それを越えていませんか。
- 「命じる」は、業務命令です。残業命令・休日出勤命令を出さなければ、いけないのです。
もちろん、割増賃金の問題もあります。
労働時間管理の問題は、規定には書かれていませんが、労働基準法では当然の如く要求されているのです。
就業規則を、規定どおりに運用することは、簡単なはずですが、綺麗に運用している企業は、そう多くはありません。
運用のヒント
就業規則を厳格に運用していれば、就業規則は大事なものという共通の認識が従業員の間に生まれ、就業規則に基づく処分も納得が得やすくなるでしょう。
就業規則を大切にすればするほど、労務管理も行いやすくなります。
「なあなあ」は最もいけない運用方法です。
それならば、就業規則は有っても無くても同じようなものです。
冷徹なくらい、厳しい運用が、就業規則を労務管理のツールとして有効に存在させます。
お客様の従業員が、私傷病での休職期間を満了しました。
延長の是非について相談された私は、「規定どおり退職で、お願いしたいと思います。」と申し上げました。
人事労務の担当部長は、一言「冷たいなあ。」でした。
従業員に仕事から解放して、治療を優先させて、働ける状態になった時に、再雇用や職場復帰させた方が良いと思ったからです。
就業規則は恣意的に運用するものでなく、誰に対しても何に対しても、「規定どおり」が一番です。
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