制服・作業服への着替え時間は、労働時間?

ある同業者の勉強会で上がってきたテーマです。そのグループで某大企業&上場企業に勤務する社会保険労務士が質問相談の類で投稿した内容です。

「(製造業)作業服への着替え時間は、労働時間ではありませんよね?」
書きすぎると、その勉強会グループでの私の居場所がなくなるので、ほどほどにしますが、そこでの結論(意見?)は、次の通り。

  • 製造業で、作業服への着替え時間を労働時間に含めているのは、聞いたことがない。
  • そもそも、制服・作業服に着替えるのは、労働時間なのか。含めているのを聞いたことが無い。
  • そんなことで、会社側と従業員・社員の側でトラブルになったことがない。

概ねこのような感じです。主に企業の人事・総務出身の社会保険労務士が発言していました。が、企業の事例を全てチェックできないにもかかわらず、情緒的な結論に至ったことに私自身は社会保険労務士としてガッカリしました。

以下、社会保険労務士の資格をお持ちの方は読まないようにお願いします。


大阪社労士事務所:制服・作業服への着替え時間は、労働時間?

ガイドラインでは

平成29年1月20日に策定された「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドライン」を読みましょう。

労働時間の考え方のパートのみ掲載します。

3 労働時間の考え方
 労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。そのため、次のアからウのような時間は、労働時間として扱わなければならないこと。
 ただし、これら以外の時間についても、使用者の指揮命令下に置かれていると評価される時間については労働時間として取り扱うこと。
 なお、労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであること。また、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものであること。

ア 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間

イ 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)

ウ 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

着替え時間を労働時間として取り扱うよう記載があります(下線部)。

労働時間適性把握のためのガイドラインが出ていると言うことは、労働基準監督官はこのガイドラインをベースに指導してくると考えてください。通達ですから。

調査で監督官に反論しようとすれば、それなりの根拠や理屈が必要になってきます。そんな場で「着替え時間を労働時間に含めている事例はありませんよ」と言ったとしても、監督官に反発を買うだけです。

※弁護士や学者の間でも、「着替え時間も労働時間」と記載があることについては意見や異論があることも知っています。ガイドラインに明記されているという硬直的な考え方を是として書いているわけではありません。

着替え時間が労働時間に含まれる場合

どのような制服・作業服への着替えが労働時間に含めるのか、チョロッと裁判例を探してみました。

  • B代行事件・東京地裁判決(平成17.2.25)
    制服への着替え(10分=5分×2)
  • Iセキュリティ事件・千葉地裁(平成29.5.17)
    制服への着替え(10分)

どちらも警備業で警備員さんの制服への着替えに10分(B代行の方では、着るのに5分、脱ぐのに5分)掛けていれば、労働時間になるとされました。地裁判決ですが、参考にはなるかと。

  • 「義務的で入念な作業が必要」なら労働時間とすると、例えば次のようなケースは着替え時間が労働時間になるかと。
    • 服を着替えてエアーシャワーを浴びて無菌状態や埃のない状態で作業をするような状態
    • 新型コロナウイルスの防護服を着る状態
    • カメラのレンズを製造する現場に入る状態(これ、製造業では?)
    • 放射線が高い状態の施設に入る場合

大阪社労士事務所:制服・作業服への着替え時間は、労働時間?

着替え時間を労働時間に含めないで良いと考えられる場合

労働時間適性把握のガイドラインでは、「着替え時間は労働時間と考えなさい」と書いていますので、そこからは外れます。弊所・大阪社労士事務所と顧問契約(労務相談顧問社会保険労務士顧問)のあるお客様なら責任を感じますが、ただブログを読んだだけの企業様の責任まで取れませんので、扱いにはご注意ください。

また、非上場・非連結の中小企業様であれば、「テキトー」も許されると思います。

  • ジャケットやシャツだけの制服を着用する場合
  • 飲食店で、「黒いパンツ・スラックスに、白いシャツ」を着用する場合(制服かどうかも微妙)
  • 通勤時に、制服・作業服の着用が認められているとき

実際には、タイムカードなどの出退勤記録のタイミングもあるので一概には書けませんが、「着用にそんなに手間が掛からない制服・作業服への着替え時間」は、労働時間に含めなくても良いのでは。
(三段論法ではありませんが、少なくとも「聞いたことが無い」「事例を知らない」でいきなり「着替え時間は労働時間ではない」と言う結論を出すのは、ちょっとどうなんでしょう?)

企業内で確認すること

制服・作業服への着替え時間を測定したことはありますか?

先の裁判例を見てみると、着用するのに5分掛かるようであれば労働時間にした方が良いようです。ですので、実際に着替えてみましょう。

総務・人事のご担当者が、着替え担当の教育を受けた上で、着用するのに掛かる時間をストップウォッチなどで計測します。人数は、一人だけでは無く、数人。1週間ほど測定すれば、ほどほどの平均値が出てきます。
(着替えのロッカールームで、実際に着替える方のタイムを測定しても良いとは思いますが、お互いイヤですよね。勤務地自体バラバラのこともあるでしょうし。)

ここまで行えば、労働基準監督官の調査があった場合でも「こんな短い時間ですよ、労働時間として算入する必要があるでしょうか」と抗弁できるようになります。

個人的には、◯分程度ならエエと思います。

弊所・大阪社労士事務所のお客様の場合

出勤時には、労働時間に含めておりません。と言うか、重装備の制服・作業服への着替えを要する業種・職種は少ないので。

ただし、退勤前の着替え時間は、労働時間に含めている企業様が2社ほどあります。「作業によって出た汗を引かせるための時間」「カラダに付いた匂いを落とすための入浴時間+通勤服への着替え時間」などは労働時間に含めています。両社とも製造業です。作業服自体はシンプルで私が見たところ「フツー」の作業服です。

数十人規模の企業様で、上場企業や関連会社でもないですし、企業内労働組合も存在しません。

そういう企業様も一部ですが、あるんです。ご参考まで。

結論、着替え時間は?

「着替え時間は、労働時間ではない」「そういう事例はない」と言うのは簡単です。ただ、あまりに情緒的で根拠も理屈もありません。
(だから、ガイドラインには着替え時間は労働時間と書いてあるんです。除外して良い、労働時間ではないとは書いていません。監督官が指摘しないのは、着替え時間以外の問題があるからです。着替え時間に問題があったとしても、、、、、いえいえ自主規制。)

企業様によって決めれば良いことですが、もしお悩みのことがあれば弊所・大阪社労士事務所へお気軽にご相談ください。

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