年俸制とは

年俸制とは、1年間の給与の額をあらかじめ決めておく賃金制度を指します。
年俸は「ねんぽう」と読み、漢字の変換もできますが、「ねんぼう」ではありませんので、ご注意ください。

年俸制は、企業・従業員が対等であることが原則ですが、少なくとも「ものを言いやすい職場環境」が必要です。対等でない場合は、年俸制本来の意味での、賃金交渉・目標の設定・評価などができないので、賃金交渉が実質無意味になります

管理・監督の職にない者に年俸制を適用したとしても、通常は時間外手当などが必要です。契約書に時間外手当のことを書かなくとも、法律上支給されるべきものだからです。少なくとも、一定時間の残業手当相当分を含む表現が重要です。

注意すべきは、能力・実績を給与に反映することが出来るのは年俸制だけではありません。月給制で対応できるものをわざわざ変更するのは、時間と費用の無駄です。

賃金コストカット・人件費の削減の面だけから、年俸制の導入を図るのは、労務管理上危険です。労使トラブルの増加原因となりがちです。

就業規則や賃金規程が、きちんと整備されていない企業にあっては、年俸制以前に、それら社内規程の整備が一番目、2番目が人事評価制度の整備です。
労働基準監督署の調査(臨検)に対応できない制度は、問題です。

導入にあたっては、社内に人事労務・労働法の専門職がいない場合は、外部の社会保険労務士や労働分野を専門とする弁護士に制度の適法性について、確認されることを強くおすすめします。

年俸制のメリット・デメリット

メリット・良いところ

  • 経営者意識を醸成できる。
  • 従業員の活性化をはかり、業績目標達成がはかれる。
  • 優秀な人材の確保が可能になる。
  • 賃金管理が簡素化できる。
  • 公正な評価に役立つ。
  • イメージが良く、先進的な感じがする。

デメリット・悪いところ

  • 年俸額が減額したときのモラール・ダウンの対応が必要。
  • 収入が不安定になることに対する危機感と生活スタイル変更の必要性。
  • 結果重視、短期的視野での行動をとりがちになる。
  • 評価の信頼性と決定プロセスに手間がかかる。
  • 契約期間中の契約解除は、損害賠償の請求対象となる。

年俸制導入前に検討する点

年俸制の導入を検討する前に、次の事項は検討あるいは準備をしておきます。
年俸制適用の対象者を、誰にするのか。
□評価基準の明確化は、できているのか。無い場合は、人事評価制度の設計から。
年俸制の種類は、どうするのか。完全年俸制か、月例給与のみ年俸制対象なのか。
□年俸額のアップ・ダウンの上限・下限の設定。
□年俸額のダウンが続いた場合の最低保障は、いくらか。
□年俸額のアップ・ダウンの方式は、賃金表・率、それとも賞与のみ対象とするのか。
□短期的な目標と中長期的な計画とのかねあいをクリアできるのか。
□人材の育成方針を、どうするのか。
□ボーナス・賞与のあり方は、従来と同じでよいのか。
□退職金の算定基準をどうするのか。
□個別交渉の時間、方法、時期を、考えているか。
□変形労働時間制、裁量労働制、みなし労働の導入は、必要か・導入可能か。
□売上高や契約高、経営状況のオープン化が、可能か。
□評価に対して納得がいかない場合の対策は準備可能か。
年俸制導入の目的は、何なのか。人件費削減やノルマ強化などのマイナス面が目立たないか。
年俸制適用者の最低年俸額をいくらに設定するのか。
□各種の手当の位置付けをどうするのか。通勤手当は、別枠とするのか。
□役員(取締役)の報酬制度をどうするのか。

年俸制の導入実務

前提となる、「人事評価制度」はあるものとした場合、次のような考え方が、簡便と思われます。

  1. 対象者を選定します。
    現状の法律の下では、対象者は管理職か、裁量労働制の対象者が現実的でしょう。
  2. 現在の月例給与を下げない方向で、年俸額を決定します。
    年俸額は、月例給与×12月+夏・冬ボーナス最低保障分0.5月〜1.0月×2回程度で設定します。
  3. 労働契約書には、年俸額ではなく月例給与の額、期間は長期雇用を前提としますので、期限を付けません。契約解除に絡むトラブルを防止するためです。

賃金交渉の場は、半期に1回が適当です。

制度の設計に当たっては、かなり慎重にしなければ、必ずと言って良いほど、トラブルの種となりますので、十分ご注意下さい。

年俸制の問題点

  1. 年間で給与・賃金を決める場合は、期間途中で合理的な理由がなければ、年俸額の変更は難しい。
  2. 完全固定の年俸制は、「社会保険」「労働保険」の保険給付に当たって、問題となりやすい。
  3. 1年間の給与・賃金を表すのであれば、年収制であれば良い。
  4. 管理職でも裁量労働制の対象者でもない、一般の従業員には、時間外労働があれば残業代の支払いは免れない。休日労働も然り。



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