正しい割増賃金の計算方法
割増賃金、そう残業代のことです。
1時間の単価に残業時間を掛ければ残業手当の額になる。
これくらいのことは誰でも知っています。
ならば、1時間当たりの単価はどのようにして算出するのか、ご存じですか。
実は労働基準法によって決められているんです。
正しい割増賃金を算出するには、次の書類を準備します。
- 賃金規程(就業規則の一部)
- 賃金台帳
- カレンダー
以下では、理解を容易にするため、分かりやすく表現しています。実際に計算される場合は、実態により対応してください。
月給の場合
多くの場合、通常は月毎に所定労働時間が違いますから、1年間を平均した、1カ月間の平均所定労働時間を用います。
給与の額は、1ヶ月の所定労働日数を勤務したならば支給される給与・手当の合計です。
一般に次のものは含まれます。
基本給(職能給、職務給、年齢給など)、皆勤手当、食事手当、資格手当、運転手当、役職手当など
ただし、次のものは除外しても良いことになっています。
家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、臨時給与、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる給与 (名称に関係なく、実質的な支給内容がどうなっているのかで判断します)
それでは、実際に残業代の基礎になる時間単価を計算します。
- 1カ月平均の所定労働時間数を算出するにあたり、1年間の所定労働日数を出します。
1年間の所定労働日数は、所定休日の日数の合計を1年(365日または366日)から引き算をすれば、出ます。
所定休日とは、カレンダーの赤い部分でなく、会社の社内カレンダーの休日です。日曜、土曜だけでなく、祝日や年末年始、お盆、などの既に決まっている休日を指します。就業規則のある会社ならば、「休日」「所定休日」の見出しの項にある休みを指します。「週休2日制で、祝日や年末年始が休み」の会社であれば、所定労働日数は240日前後です。 - 電卓などを使い計算します。
1ヶ月平均の所定労働時間数
=1日の所定労働時間×1年間の所定労働日数÷12ヶ月 - 時間単価を計算します。
1時間あたりの金額
=給与・手当の合計額÷1カ月平均の所定労働時間数
割増賃金は、1時間あたりの金額に労働基準法の割増率を掛ければ計算できます。下記の表の割増率は、説明をしやすくするため、平成22年4月施行の改正労働基準法に対応していませんので、悪しからず。
通常の残業 | 25%以上 | |
深夜・早朝の残業 | 25%以上 | 午後10時から翌日午前5時まで 通常の残業と重なるときは +25%以上 |
休日の出勤 | 25%以上 | |
法定休日の出勤 | 35%以上 | 法定休日とは、労働基準法で定める 週1日または4週4日の休日 |
実際に計算してみましょう(例題)
基本給 300,000円
職務手当 20,000円
家族手当 15,000円
通勤手当 10,000円
皆勤手当 10,000円
年間の所定休日 120日(カレンダーから計算)
1日の所定労働時間8時間(所定労働時間は就業規則から)
時間外賃金の割増率25%(割増率は賃金規程から)
1ヶ月平均の所定労働時間数
=8時間×(365日−120日)÷12ヶ月
=163.33時間/月
時間数は、小数点以下2桁程度までで良いと思います。3桁目は切り捨ててください。実際は、就業規則・賃金規程の規定によります。
1ヶ月の給与・手当の合計額(算定基礎額)
=基本給+職務手当+皆勤手当
=330,000円
通勤手当と家族手当は、算定基礎額に含めなくても構いません。賃金規程で確認します。
1時間当たりの単価
=330,000円/163.33時間
=2,020.44円
1時間当たりの時間外手当(通常の残業代の単価)
=2,020.44円×(100%+25%)
=2,525.55円
=2526円(円未満4捨5入、切り上げ可)
実際の給料で一度計算して下さい。 手当の名称は、異なっているのが普通ですので、例題と違う場合があります。
なお、端数処理の仕方によって多少の差は生じます。端数処理について就業規則・賃金規程に規定があれば、それに従います。
残業代の単価に残業時間を掛ければ、その月の残業代が出ました。
例えば、残業時間が25時間の場合は、次のような計算になります。
- 残業代単価2,525.55円の場合
2,525.55円×25時間=63,138.75円
→切り上げて、63,139円 - 残業代単価2526円の場合
2526円×25時間=63,150円
時間給・日給の場合
時間給・日給の場合は、月給の場合より単純です。
時間給の場合、時間単価は明白。時間単価=時間給ですから。
日給の場合は、時間単価は、日給の額を所定労働時間数で除して算出します。
日給が8000円、所定労働時間数が8時間であれば、時間単価は1000円です。
時間給だから、1日8時間を越えて働いても、同じ時給ではありません。
時給が800円ならば、8時間を超えた場合の残業代は800円×(100%+25%)=1000円/時です。
深夜になった場合は、割増率が更に+25%以上加算されます。
コンビニやファミレスの求人は、時給も深夜割増もきっちり計算されています。
間違いやすい割増賃金に関すること
- 1カ月平均の所定労働時間数は、毎年違うのが普通です。土日の配置、祝日やうるう年の関係で変わってきます。会社によっては、1カ月の所定労働時間数や年間の所定労働日数を固定化して、就業規則に規定しているところもあります。
- 切り捨て・切り上げは、従業員にとって有利になるようにします。また割増率も、法律の最低ラインより低くならないよう注意が必要です。
- 所定労働日数は、1カ月の日数から日曜日だけを除いたものではなく、また25日と決められているわけでもありません。歴史のある古い会社では、給料÷25日÷所定労働時間=時間単価としているところが多いようですが、それは間違いです。
- 管理職手当や営業手当も、時間単価の算定基礎額に入ります。就業規則や賃金規程で、支給の内容について「割増賃金見合い」である旨規定しておくのが、最近では常識です。
- 住宅手当は、一律に支給されている場合は、残業代単価を算出する基礎賃金に含めます。除外できません。
割増賃金の計算方法の根拠法令
(あえて、平成22年4月改正施行分は、含めておりません。改正前の法令のため、取扱いには、十分ご注意ください。)
労働基準法
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第37条 使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
2 前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。
3 使用者が、午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
4 第1項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。
労働基準法施行規則
第19条 法第三37条第1項の規定による通常の労働時間又は通常の労働日の賃金の計算額は、次の各号の金額に法第33条若しくは法第36条第1項の規定によつて延長した労働時間数若しくは休日の労働時間数又は午後10時から午前5時(厚生労働大臣が必要であると認める場合には、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時)までの労働時間数を乗じた金額とする。
一 時間によつて定められた賃金については、その金額
二 日によつて定められた賃金については、その金額を1日の所定労働時間数(日によつて所定労働時間数が異る場合には、1週間における1日平均所定労働時間数)で除した金額
三 週によつて定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数(週によつて所定労働時間数が異る場合には、4週間における1週平均所定労働時間数)で除した金額
四 月によつて定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によつて所定労働時間数が異る場合には、1年間における1月平均所定労働時間数)で除した金額
五 月、週以外の一定の期間によつて定められた賃金については、前各号に準じて算定した金額
六 出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額
七 労働者の受ける賃金が前各号の二以上の賃金よりなる場合には、その部分について各号によつてそれぞれ算定した金額の合計額
2 休日手当その他前項各号に含まれない賃金は、前項の計算においては、これを月によつて定められた賃金とみなす。
第20条 法第33条又は法第36条第1項の規定によつて延長した労働時間が午後10時から午前5時(厚生労働大臣が必要であると認める場合は、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時)までの間に及ぶ場合においては、使用者はその時間の労働については、前条第1項各号の金額にその労働時間数を乗じた金額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
2 法第33条又は法第36条第1項の規定による休日の労働時間が午後10時から午前5時(厚生労働大臣が必要であると認める場合は、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時)までの間に及ぶ場合においては、使用者はその時間の労働については、前条第1項各号の金額にその労働時間数を乗じた金額の6割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
第21条 法第37条第4項の規定によつて、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第1項及び第3項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。
一 別居手当
二 子女教育手当
三 住宅手当
四 臨時に支払われた賃金
五 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金
労働基準法第37条第1項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令
(平成6年1月4日政令第5号)
内閣は、労働基準法(昭和22年法律第49号)第37条第1項の規定に基づき、この政令を制定する。
労働基準法第37条第1項の政令で定める率は、同法第33条又は第36条第1項の規定により延長した労働時間の労働については2割5分とし、これらの規定により労働させた休日の労働については3割5分とする。
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