スウェーデンの社会保障制度」は、研究テーマですので、この内容をもとにスウェーデンの社会保障制度について行動、判断することはおすすめできません。作成時期2008年

スウェーデンの社会保障制度

児童、女性の生活保障

最初に児童に対する生活保障制度についてみてみたいと思いますが、児童とセットになったものとして女性の問題をまず考えなければなりません。

スウェーデンの生産年齢、つまり16歳から64歳までの全女性人口の76%が職業を持って働いています。男性が80%ですから、ほとんど男性も女性もみな職を持って働いていると考えていいレベルです。

女性の社会進出の背景なぜこのように女性の社会進出が進んでいるかということですが、以前はスウェーデンでも「女性は家庭に」というのが常識でした。
しかし、1960年代に猛烈な経済成長を遂げたことが労働力不足の深刻化を招き、そのことが女性の社会進出の引き金になりました。

ここで少しスウェーデンの歴史的背景を整理しますが、17世紀から18世紀にかけてのスウェーデンはヨーロッパ随一の強大国でした。その頃は戦争に明け暮れ、巨額な戦費と国民を費やした結果、国は疲弊し、スウェーデンは貧しい農業国へと転落してしまいます。19世紀半ばには人口膨張と凶作が重なり、1860年から1930年までの70年間で約100万人が移民としてアメリカなど諸外国へ流れていったと言われています。当時のスウェーデンの人口が350~500万人ですから、いかにすさまじい移民状況だったか、この数字からもわかるでしょう。そして、1930年代に入って社会民主党の政権が誕生し、スウェーデンモデルといわれる福祉国家・生活大国が形成されて行くわけですが、その大きな要因になったことは第一次・第二次両大戦で中立を保ち、社会的資源を破壊されず蓄積し続けることができたためだといわれています。つまり180年間戦争をしなかったことが戦後の空前の経済成長を招き、経済成長によって労働力不足を招き、女性の社会進出へと結びついたのです。

さて、児童・女性の生活保障をまとめると、次のようになります。

  • 保育所は朝7時から夕方6時まで
  • 両親保険(育児休暇)制度は450日間
  • 看護休暇制度
  • 児童手当金制度

成人の生活保障

これまで女性・児童の生活保障制度に言及しましたが、次に成人の生活保障制度についてみてみましょう。

  • 年次有給休暇制度は5週間
    年休は年間5週間とることができ、1)一括して与えること、2)本人の同意なしで雇用主が勝手に分割することができないよう制度、が定められています。夏の休暇を4週間取り、残りの1週間はクリスマスに取るというのが一般的です。年休1週間を5年間積み立てると6年目には10週間の超大型休暇が与えられることになっており、これを利用して世界周遊の旅に出る人も多い。大型休暇があってもお金がなければ困ると思われるかもしれませんが、スウェーデンでは年次有給休暇期間中の賃金は、通常勤務時の15%増しで支給されます。
  • くらしと労働
    スウェーデン人には、貯蓄するという意欲・意識は低いと言えます。
    あるとすれば夏休みを楽しむためにちょっとためておこうというくらいで、日本のような老後の備えという観点はまったくありません。
     
    人々の関心は、毎日の労働についてが一番高いのです。労働というと、日本ではお金を儲けるためという考えがほとんどを占めますが、本来労働というものは子どもの遊び・青年のスポーツと同じレベルに位置づけられるべきものであって、人間性を培うためのものであり、スウェーデンではそうした本来の労働、人間性発揮の場としての労働という観点が貫かれています。
     
    法定労働時間は週40時間で、けっして他のヨーロッパ諸国と比べると短くはありません。ただ、残業はほとんどありません。残業して賃金が増えても税金が高くなるだけという考えもあります。労働時間は40時間が基本で、看護職は38時間、在宅サービス従事者は35時間と決められています。

高齢者の生活保障

年金制度

高齢者の生活を支えるのが発達した公的年金制度です。

当初はフランスにならって労働者年金を創設しようとしていました。しかし、労働者年金では恩恵を受けない高齢者が多いことが明らかになり、労働者年金ではない画期的な国民年金法が1913年にできました。これは、当時としては画期的な制度だったのですが、スウェーデンの良い点は法律がきちんと機能しているかどうか絶えず見直すところにあります。他の国は、問題が表面化しない限りは、法律を作れば、それで良いという考え方です。

この年金制度では生活保護基準を下回っていることが明らかになり、保険機能を削除して支給額も引き上げて国民年金法に改正しました。

さらに定額の基礎年金に生活保障を個別に保障する国民付加年金が1963年に制度化されました。2000年からは新年金制度が整備され、基礎年金の充実と付加年金部分ではブルーカラーとホワイトカラーの格差是正がはかられています。
それでも十分でない場合には住宅手当金が支給され、退職後の生活が保障されています。

背景

スウェーデンの年金制度で、背景にあるのが、世代間対立がないということです。日本では高齢者の福祉を若い世代の負担で補うのは問題だという論調が一般的ですが、スウェーデンではそうした世代間対立はなく、先を行く世代のために後から来る世代が支柱となることは当然だという態度です。

このようにスウェーデンでは男女平等や民族平等などか様々な意味での平等が示されていますが、世代間も平等であるという考え方が根底に流れていると考えられます。



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