労働契約法の概要と対応

労働契約法ができた理由

同じ会社のなかでも、正社員だけでなく、パートやアルバイト、派遣、出向、請負などさまざまな就業形態で働く人がいます。働き方が異なるため、会社と従業員とで交わす労働契約の内容は多様化し、労働契約をめぐるトラブルも増加しています。

労働契約法ができるまでは、個別労働契約を解決するためのルールをまとめた法律がなく、トラブルが生じたときは、それまで蓄積されてきた労働トラブル関係の判例などにより判断されていました。

しかし、それでは企業や従業員にとって、労働契約のルールがわかりやすい状態とはいえません。
労働契約についての基本的なルールを誰にでもわかりやすいようにまとめたものが労働契約法です。

企業や従業員が労働契約を結ぶとき、変更するとき、終了するとき、それぞれどうすればいいのか、何に気をつけなければならないのか、労働契約に関するルールが示されています。

労働基準法は、労働条件の最低基準を定めたもので、労働基準監督官による監督指導および罰則があります。
労働契約法は、労働基準法を前提としていますが、監督指導も罰則もありません。
労働契約の合意による原則、基本的な定め、労働契約に関する民事的なルールを定めているだけです。

労働契約法の趣旨や内容を会社や従業員に周知することにより、ルールに沿った労働条件の決定や変更が行われ、労使間のトラブル防止や早期解決につながることを期待されています。

施行は、平成20年3月1日です。
中国の労働合同法(労働契約法)は、1月1日です。

労働契約法の実務対応

労働契約法では、主にトラブルになりやすい労働契約を結ぶとき、労働契約の内容を変更するとき、労働契約を終了するときのそれぞれの場面で気をつけるべきことが書かれています。

労働契約法は、労使間のトラブルを防止し、従業員の保護と労働関係の安定のための法律です。
労働契約法の内容を踏まえ、労働契約を結ぶとき、変更するときなどトラブルのない安定した労働関係が維持できるように気をつけましょう。
大切なのは、企業と従業員がお互いに十分に話し合い、理解しあうことです。

以下は、大まかな注意点です。

労働契約を結ぶとき

労働契約は、企業と従業員の合意により成立します。

契約内容について従業員が十分に理解しないまま、契約を結ぶことによりトラブルが生じることがあります。
そのために、契約内容に誤解がないよう労働条件をきちんと説明することと、できる限り契約の内容について書面で確認することを求めています。

また、個別の労働契約では詳しいことを定めないで、就業規則により労働条件を設定することがあります。就業規則の内容を労働条件とするには、就業規則に定められている労働条件が合理的な内容であることと、従業員に就業規則の内容を周知させていたことが必要とされています。

労働契約を変更するとき

企業と従業員が合意をすれば、労働契約の内容を変更することができます。
労働条件の変更をめぐってトラブルにならないように、双方が十分に話し合うことが大切です。

就業規則による労働条件を変更するとき、企業が一方的に就業規則を変更しても、その内容が従業員の不利益なものである場合は原則として変更することができません。

就業規則による労働条件を変更する場合、次の要件を備える必要があります。

  • 従業員の受ける不利益の程度
  • 労働条件変更の必要性
  • 変更後の就業規則の内容の相当性
  • 労働組合等との交渉の状況

また、変更後の就業規則の内容を従業員に周知させなければなりません。

労働契約を終了するとき

出向や懲戒、解雇については、従業員への影響が大きいため、トラブルにつながりやすくなっています。

トラブルを防ぐため、権利濫用となる出向命令、懲戒処分は無効となります。
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇もまた権利を濫用したものとして無効となります。

労働契約法の条文

労働契約法(平成十九年十二月五日法律第百二十八号)

 第一章 総則

(目的)
第一条 この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。

(定義)
第二条 この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。
2 この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。

労働基準法では、「第9条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」
「第10条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。」
「第12条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」
「使用者」の定義が、労働基準法・労働契約法で異なっています。労働基準法の方が、広い範囲を使用者と呼びます。

(労働契約の原則)
第三条 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
2 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
3 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

3項が、いわゆるワーク・ライフバランス条項です。しかし、実際は何をどうするのかは、詰められていません。

(労働契約の内容の理解の促進)
第四条 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
2 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。

(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

安全配慮義務が出てきました。ただし、ワーク・ライフバランス条項と同じく、「必要な配慮」で済ませています。

 第二章 労働契約の成立及び変更

(労働契約の成立)
第六条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

民法では、「(雇用)第623条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。」となっています。(請負)は第632条、(委任)は第643条に規定されています。

第七条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

就業規則の周知が大事であることが、お分かりいただけると思います。

(労働契約の内容の変更)
第八条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

契約自由の原則を、改めて書いています。

(就業規則による労働契約の内容の変更)
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

労働条件の不利益変更は、原則出来ない旨、書かれています。不利益変更は、義務を追加したり、条文を1条追加するだけで、そうなってしまいます。

第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度労働条件の変更の必要性変更後の就業規則の内容の相当性労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

不利益変更の際には、この条文をお忘れ無く。

(就業規則の変更に係る手続)
第十一条 就業規則の変更の手続に関しては、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第八十九条及び第九十条の定めるところによる。

労働基準法では、「(作成及び届出の義務)第89条 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。(各号省略)」
「(作成の手続)第90条 使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
2 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。」
従前と変わっていません。10名以上の従業員がいれば、就業規則は作成義務ありです。

(就業規則違反の労働契約)
第十二条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

(法令及び労働協約と就業規則との関係)
第十三条 就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、第七条、第十条及び前条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。

 第三章 労働契約の継続及び終了

(出向)
第十四条 使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

法律に「出向」と言う言葉が出てきましたが、定義がありません。関連会社、人事交流などの本来の出向か否かは、次回以降の法律改正で出てくるのでしょうか。

(懲戒)
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

中国の労働合同法は、もっと詳細に懲戒・解雇事由を法律で規定しているのですが、「客観的合理的な理由」がいつも人事労務のご担当者を悩ませるところです。

(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

労働基準法の旧の第18条の2がそのまま、引っ越してきました。(旧の方は削除されました。)

 第四章 期間の定めのある労働契約

第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
2 使用者は、期間の定めのある労働契約について、その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。

優しい書き方ですが、パートタイマー・契約社員だけでなく、「年俸制」で契約期間を1年間と定めている場合も、この条文に該当します。民法にも年俸の場合の記載がありますが、要注意です。

 第五章 雑則

(船員に関する特例)
第十八条 第十二条及び前条の規定は、船員法(昭和二十二年法律第百号)の適用を受ける船員(次項において「船員」という。)に関しては、適用しない。
2 船員に関しては、第七条中「第十二条」とあるのは「船員法(昭和二十二年法律第百号)第百条」と、第十条中「第十二条」とあるのは「船員法第百条」と、第十一条中「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第八十九条及び第九十条」とあるのは「船員法第九十七条及び第九十八条」と、第十三条中「前条」とあるのは「船員法第百条」とする。

(適用除外)
第十九条 この法律は、国家公務員及び地方公務員については、適用しない。
2 この法律は、使用者が同居の親族のみを使用する場合の労働契約については、適用しない。



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